備考:以下は押収された4冊の記録媒体に関する閲覧手順書である。
担当調査員は既に所在不明のため、本手順書の信頼性は保証されない。
※テキストにカーソルを合わせると、ノイズが除去され判読可能になります。
【閲覧手順】
展覧会という特異空間での「被曝」記憶が残留しているうちに、直ちに着手すること。本書は作品集ではない。主を失ったモノたちが保管された「紙の倉庫」である。
【着眼点】
ページをめくる際、文字情報よりも「余白」や「写真の隅」に意識を集中せよ。「なぜこの持ち主は消えなければならなかったのか」という問いかけは行わないこと。彼らは消えたのではなく、我々に見えない角度に移動しただけである可能性がある。公衆電話、貼り紙、放置された靴。それらの座標を脳内でマッピングし、自宅という安全地帯に「展覧会の出口」を再構築する作業となる。
【閲覧手順】
本書は、論理的思考を破壊するために編纂された「毒」のアンソロジーである。一気に摂取することは推奨されない。深夜、家族が寝静まった後に、近所のゴミ捨て場から拾ってきた手紙をこっそり開封するような、湿度の高い背徳感を持って接すること。
【着眼点】
書かれている内容の意味を解読しようとしないこと。「意味不明な羅列」の中に、自分宛てのメッセージを見つけようとした瞬間、読者は「観測者」から「当事者」へと引きずり込まれる。筆跡の乱れ、執拗な繰り返し、物理的な汚れ。それら他人の狂気が煮詰まった「生ごみ」のような質感を指先で感じ取り、理解できない恐怖を「娯楽」として消費する冷徹さが必要である。
【閲覧手順】
最も精神的カロリーを消費する長編資料。これはフィクションではなく、「かつて深夜帯に放送され、不自然な形で打ち切られた実在の捜索番組」のアーカイブであると自己暗示をかけること。スマートフォンを用意し、提示されるQRコード(映像・音声)を必ず併用せよ。
【着眼点】
活字を追うだけでは不十分である。映像の中のノイズ、音声の背後に混じる環境音。メディアミックスの隙間に、制作者(梨)が隠した「放送してはいけなかった真実」が埋め込まれている。「イシナガキクエ」という単語を口に出して読んではならない。彼女を見つけたいと願うその善意こそが、最大の罠であることに気づく頃には、もう手遅れになっているだろう。
【閲覧手順】
就寝前、脳が疲労し判断能力が低下している時間帯(AM 2:00以降推奨)に閲覧を開始せよ。これは書籍という形態をとっているが、本質は「インターネットの深層に吹き溜まった呪いのログ」である。モニターのブルーライトを浴びすぎた時の、あの乾いた眼球の感覚で読むのが最適解である。
【着眼点】
ネット怪談、掲示板、チャットログ。様々な形式で語られる怪異たちは、常に「画面の向こう側」からこちらを覗き込んでいる。スクロールする指を止めた時、ふと背後に気配を感じる演出こそが本書の真骨頂である。物語のオチを求めるのではなく、「終わらない悪夢の断片」を拾い集める作業に没頭せよ。ネットの海で溺れる感覚を味わうべし。